Skip to content

イラストを描くときに聴くと良い音楽

音楽を聴きながらイラストを描いている絵描きは少なくありません。この記事はイラストを描くときに良い効果が望める音楽について考えます。

音楽と絵画の関係

音楽と絵画が深い関係にあることは古くから考えられていました。例えば西暦前384-322年に生きた古代ギリシャの哲学者アリストテレスが『音楽的調和に関する諸問題』について記し、それが種子となり色彩調和の法則を音楽理論から推測する考え方が育ちました。

イギリスの化学者ジョージ・フィールド(西暦1777ごろ-1854)は「色は赤・黄・青、音楽はド・ミ・ソ-万物は3つの要素とその類似で発展する」と哲学的な色彩調和を論じました。

19世紀後半のフランスで印象派と呼ばれる芸術が発展しました。印象派にはモネやセザンヌやルノワールといった画家がいます。そして印象派は他の芸術分野にも影響を与え、印象主義音楽や印象主義文学が生まれました。印象主義の作曲家にはラヴェルやドビュッシーがいますが、ドビュッシー自身はそれを否定しています。

現代においても音楽と絵は切っても切れない関係にあります。例えば映画の主題歌はその映画を方向付けるものとして力を発揮します。逆に漫画やアニメなどのイラスト表現に合わせて、音楽も変化してきました。

それは絵描きにとっても同じです。音楽は気分を高揚させ、世界をイメージする助けになります。音楽を聴くことによってやる気を向上させられると考える絵描きもいれば、リラックスするのに役立つと考える方もいます。

では、イラストを描くときに聴くと良い音楽はどのようなものでしょうか。調べてみましょう。

一番良いのは音楽を聴かないこと

意外かもしれませんが、イラストを描くときに最も効果があるのは『音楽を聴かないこと』です。

アニメーターのリチャード・ウィリアムズは、著書『アニメーターズサバイバルキット』の最初のレッスンでこう書いています。引用します。

スイッチオフ!

スイッチオフ! ヘッドフォンを外そう! ラジオを切ろう! CDを止めよう! テープも消そう! そしてドアを閉めよう。

The Atlanticのライターであるオルガ・カーザンは様々な研究を精査した結果『静寂であること以外ではパフォーマンスを損なうことが研究によって示されている』という趣旨のことを記事にしました。

そのことを取り上げたlifehackerは『生産性を最も高めるBGMは…「何も聴かないこと」だった』という記事を掲載しています。

はたらくビビビットのコラム『作業中のBGMはアリ?ナシ?音楽による効果』で、出典が明らかにされていませんが、次のように書きました。引用します。

よく勉強中にクラシックを流すと集中力が上がるといわれていますが、実際のところ科学的根拠としては、あまり良いことではないとされています。

青木双風さんの個人サイトの『勉強中の音楽は良いのか悪いのか?』という記事では、論文や書籍を調べた上で考察をまとめています。非常によくまとまった記事なので、読んでみることをおすすめします。その記事の中で取り上げられた研究論文や書籍は以下の7つです。

  • 谷口葉月(1998).BGMの効果及び問題点の研究―知的作業時を中心に―(鈴木ゼミ研究紀要,8,61-119)
  • 阿部麻美,新垣紀子(2010).BGMのテンポの違いが作業効率に与える影響(日本認知科学会大会発表論文集,27,3-47)
  • 野村知世(2004).BGM音楽の既知性と音楽的性格が知的作業に及ぼす影響(北海道教育大学卒業論文)
  • 大場義夫,他(1978).騒音とB.G.M.が知的作業に及ぼす影響に関する実験的研究(東京大学教育学部紀要,30,371-380)
  • 大場義夫,他(1979).騒音とB.G.M.が知的作業に及ぼす影響に関する実験的研究(第2報)(東京大学教育学部紀要,31,125-133)
  • 菅千索,岩本陽介(2003).計算課題の遂行に及ぼすBGMの影響について(教育実習総合センター紀要,13,27-36)
  • 谷口高士(1998).音楽と感情(北大路書房)

同記事ではこれらを要約した上で、こう結論しています。引用します。

これらを読む限りでは,やはり勉強中の音楽は良い結果をもたらさないようです.それぞれの論文の結論をまとめてみると,「知的作業中の音楽は,判断や理解を必要としない低レベルの知的作業(簡単な計算や暗記など)を促進も阻害もしないが,高レベルの知的作業は阻害してしまう.」といった感じのようです.

絵描きは単調な作業ばかりではないので『高レベルの知的作業』と言ってよいでしょう。これまでの引用を要約して絵描きに当てはめると、結論は『最も効果があるのは音楽を聴かないこと』となります。

多くの絵描きは作業中に音楽を聴いている

それでも多くの絵描きは作業中に音楽を聴いているのは紛れもない事実です。

統計的なデータではありませんが、私が絵描きさんたちに「作業中に音楽を聴いていますか」と質問したときも、大半の方が「聴いている」と答えました。

あなたも作業中に音楽を聴いておられるかもしれません。また、イラストレーターやアニメーターのインタビュー記事やドキュメンタリー番組などを通して、多くの絵描きが音楽を聴きながら作業していることをご存知かもしれません。

私にとって特に印象的だったのは、アニメ制作のドキュメンタリー番組で、あるアニメーターさんが耳が蒸れないようにタオルを当て、その上からヘッドフォンをして作業をしていたことです。

なぜ絵描きたちは作業中に音楽を聴くのかでしょうか。そのいくつかの理由について見ていきましょう。

やる気を出すため

脳科学者の池谷祐二先生の語ったやる気に関する言葉は『ほぼ日手帳』の定番になっています。引用します。

「やりはじめないと、やる気は出ません。 脳の側坐核が活動すると やる気が出るのですが、側坐核は、 何かをやりはじめないと活動しないので。」

やりはじめないとやる気が出ないのであれば、何かをやり始める、つまりやる気を出すための決まったルーチンを作るのは有益です。それを習慣にするのは、『やりはじめる』ことが億劫にならないというメリットがあります。

あるイラストレーターさんはこれと決めた音楽を聴くことで『スイッチ』を入れると表現しました。絵を描くためのやる気を出すということです。これは音楽を聴くことを習慣として組み込む巧みな方法です。

音楽には気分を高揚させたり、逆に落ち着かせたりする作用がありますから、決まった音楽を聴いて『やりはじめる』ことは脳科学的にも精神的にも、良い方法と言えるでしょう。

やる気のスイッチを入れる方法は音楽を聴く他にも色々あります。ラジオ体操をする、顔を洗う、軽く散歩やジョギングをする、掛け声をかけるなどです。すでに実践しておられる方もいることでしょう。

このように音楽は『お絵かきのやる気を発動させるスイッチ』のような役割を担うことができるのです。

モチベーションを維持するため

先日の記事『心が繊細な絵描きの生き残り戦術』でも書きましたが、お絵かきにはどうしても退屈な作業が伴います。

退屈を紛らわすのに音楽は有効です。音楽鑑賞を趣味にしておられる方もいることでしょう。音楽を聴くのは楽しいもので、退屈な作業をいくらか和らげてくれます。

お絵かきに限らず、家での仕事や勉強をするときに音楽を聴くこともあるでしょう。それはどちらかというと『音楽を聴くと捗る』というよりは『退屈を紛らわせる』という理由で聴いていたのではないでしょうか。

また音楽は退屈を和らげるだけでなく、気分を上げる効果もあります。作業前や作業中に気分が下がってしまうこともありますが、音楽を聴くことによって気分を上げ、その結果としてモチベーションが維持されます。

音楽は気分を上げ、モチベーションの維持する効果があります。

騒音に対処するため

騒音が気なるとき、どのように対処していますか。騒音そのものを消せない場合、イヤホンやヘッドフォンを装着して、音楽を聴くことで対処しようとするかもしれません。

お絵かきするときに騒音があるのは集中する妨げになります。それでは騒音と音楽、どちらが煩わしいでしょうか。断然、騒音の方が煩わしいはずです。

いくら証拠を提示されて『音楽を聴かない方が集中力が上がる』と言われても、騒音が気になるなら、音楽を聴いたり耳栓をしたりして対処しなければなりません。

騒音に対処するだけなら、耳栓をしたりイヤーマンをしたり、騒音をかき消せる別の音、例えば扇風機などを使うこともできます。とはいえ、少なくとも現代では、音楽を聴くことの方が日常的です。

音楽を聴くことそれ自体に集中力を上げる力はなくとも、周りの音によって集中を妨げられないために、いわば音の壁を作って、相対的に集中力を上げているのです。

音楽は騒音に対処する一つの盾となっています。

音楽”も”聴きたいため

静かなのは寂しいからという理由でテレビをつけっぱなしにする人は珍しくありません。またテレビも見たいけれど、勉強もしなくてはいけないときには、渋々テレビの音声だけを聞いて勉強するかもしれません。

非常に忙しい現代人は何をするにも時間が足りません。学校や仕事でクタクタになって帰ってきて、それから集中して宿題をし、絵を描き、リラックスして音楽を聴く、そんな時間がどこにあるのでしょうか。

時間は誰でも1日24時間なので、何に時間を使うかを決めなければなりません。でもどれを削ればいいのでしょう。宿題はしなければいけませんし、絵は描きたいですし、音楽を聴く時間も欲しいのです。

そうなると必然的に宿題をしたり絵を描いたりしながら、同時に音楽”も”楽しむという選択肢が浮かんできます。音楽は他の作業と同時に楽しめる不思議なものです。

もちろん、理想を言えば、時間をとって音楽だけをじっくりゆったり聴くことができれば最高でしょう。でも、それができないので、音楽を聞きながら作業をするのです。

時間的な理由で、お絵かきと音楽を楽しむことがあります。

雰囲気を引き出すため

音楽は雰囲気を作り、記憶を呼び起こします。のどかな春の陽気を連想させる曲もあれば、冬の寒さを思わせる曲もあります。

音楽には雰囲気を作る力があるので、映画やアニメやゲームでとても重要な役割を担っています。緊迫感も爽快感も音楽がなければ半減してしまうことでしょう。

そして音楽は記憶を呼び起す力があります。子供の頃に聴いた音楽を聴くと、子供の頃の情景が思い浮かびます。映画音楽を聴けば映画のワンシーンを、ゲーム音楽を聴けばそのシーンを思い出します。

絵描きなどのクリエイターにとって、音楽によって情景を思い浮かべられることには大きな意味があります。

例えばファンタジーの世界は実在しないので、実物の写真資料は存在しません。しかし、ファンタジー音楽を聴くと、そのような情景が思い浮かぶので、創作にとても役立ちます。

絵描きにとって、時宜にかなったイラストを発表するのは基本的な戦略の一つです。しかし、創作する時と発表する時では時間的な差が発生します。

例えば、梅雨の時期に梅雨の絵を描いたとしても、完成するころには梅雨が明けているかもしれません。季節にぴったり合ったイラストを発表したいなら、絵描きは少しだけ先を見越して絵を描く必要があります。

しかし、梅雨の時期に夏のイラストを描くのは、どうにも気分が乗らないものです。それでも描かなければならない場合、どうしたら良いでしょうか。音楽の力が役立ちます。

音楽が雰囲気を作り出してくれるので、絵描きはそれに合わせて描くことができます。雰囲気を作り出す音楽の力は、絵描きにとって助けになります。

雰囲気を引き出すために、音楽は役立ちます。

どのような音楽をいつ聴くか

ここまで絵描きが音楽を聴く理由をいくつか見てきましたが、どれも『気分を高める』ことや『モチベーションを維持するため』ことなど、気持ちのコントロールが主な理由でした。

最初に述べた通り、音楽それ自体に生産性を高めたり、絵の品質を向上させるような効果はないと思われます。しかし、状況に応じて音楽を聴くことは絵描きにとってプラスになり得ることもわかりました。

このように考えると、どのような音楽を聴くかだけでなく、どのような状況で聴くかが重要になってきそうです。その答えはすでに見てきた通り、次のような状況のときです。

  • やる気を出したいとき
  • モチベーションを維持したいとき
  • 騒音に対処したいとき
  • 音楽も楽しみたいとき
  • 雰囲気を引き出したいとき

それぞれの状況でどのような音楽が適切でしょうか。

状況に応じたおすすめの音楽

音楽の趣味は多岐にわたるので、一概には言えませんが、作業中は集中力を削がない程度の音楽がおすすめです。歌が入っていると歌詞に思考が引っ張られてしまうことがあるので、歌詞の入っていない音楽が良いでしょう。

やる気を出したいときには、気分が高揚する音楽をおすすめします。感受性の豊かな子供時代に聴いた音楽は心に残ります。大人になっても好きなものはそうそう変わりません。子供の頃に大好きだった曲を聴いてみるのはいかがでしょうか。

モチベーションを維持したいときには、気分をリフレッシュできる音楽をおすすめします。休憩を入れ、少し歩くなど体をほぐすのも大切です。もし作業中にずっと音楽を聴いていたのであれば、逆にヘッドフォンを外し、耳を休ませるのがよいかもしれません。

騒音に対処したいときには、騒音を相殺しようと大きな音を出して耳を傷つけないように気を付けましょう。密閉度の高いヘッドフォンやカナル型のイヤホンは周りの音を適度に遮音してくれます。またノイズキャンセリング機能の付いたヘッドフォンやイヤホンを使うこともできます。

音楽も楽しみたいときは、お気に入りの曲と作業用BGMを分けるようにするのはいかがでしょうか。休日などにいざ好きな曲を聴こうとしたとき、不意に作業のことを連想してしまわないようにするためです。作業中には静かめにして、休憩中に好きな音楽を聴くというのもおすすめです。

雰囲気を引き出したいときには、音楽のストリーミングサービスなどを利用して、雰囲気に合った曲をよく探すことをおすすめします。流行りの音楽に限らず、クラシックからエレクトロニカまで分け隔てなく聴いてみるのはいかがでしょうか。

自然音が良い場合もある

小鳥のさえずりや打ち寄せる波の音など、作られた音楽よりも自然の音のほうが集中しやすい場合もあります。自然の中で作業できれば一番良いのかもしれませんが、ほとんどの人はそうはできないでしょう。

自然音を再生してくれるスマートフォンのアプリがいくつかありますので、それを利用するのも一つの手です。また自然音を収集した作品を購入したりストリーミングしたりすることもできます。

自然音はどれも心地よいものですが、雨音がリラックスできると感じる人は少なくないようです。私も個人的に雨音はおすすめです。

また、自然音ではありませんがノイズが良いという方もおられます。ノイズにはホワイトノイズ、ブラウンノイズ、ピンクノイズなどがあります。私のおすすめはブラウンノイズです。

ほかにも、扇風機やエアコンの音、日本庭園で「かぽーん」となる『ししおどし』の音など、音楽ではない人工的な音が良い場合もあります。もし気がまぎれる音を出せるものがあるなら、それを積極的に使ってみましょう。

まとめ

最初に述べた通り、イラストを描くときの最も理想的なBGMは『音楽を聴かないこと』です。そのため音楽を聴かなくても集中できる人は、これからも音楽を聴かずに作業するのがよいでしょう。

とはいえ、これまで考えてきたように、状況によっては音楽を聴いた方が良い場面もあります。気分を高揚させたり、リフレッシュさせたり、騒音を軽減したり、雰囲気を想像させたりしたい場面です。

そのようなとき、自然音や歌のない音楽も考慮に入れつつ、集中力を削がない状況にあった音楽を賢く選ぶなら、モチベーションをコントロールする助けになるはずです。

いつの時代も音楽は私たちの心を鼓舞してきました。

絵と音楽は仲の良い友だちのように、互いに良い影響を与え合い、それぞれの文化を発展させてきました。そして、これからも音楽は絵描きにとって良い影響を与えることでしょう。

それでは、私たちも音楽を味方にして、引き続きお絵かきを楽しみましょう!

ではまた!